ターニングポイント
- 智子先生のブログ
90代後半のご婦人が治療に見えました。
十数年間。ず~っとうちにかかってくださっている患者さんです。
杖はついておられますが、頭がシャキッとしておられます。
義歯が壊れて、修理がご希望です。
レントゲン室に案内し、レントゲンフィルムをセットしながら、その患者さんが最初にお見えになったころの姿が浮かび、
二人で思い出話をしました。
かなり密室、密接ですけど!(笑)
その患者さんは、私の歯科医としての診療に対する考えを、大きく変えてくださった方です。
うちに最初に見えたときは、80代半ばくらい。
咬めるようにしてほしい。と言うのが主訴でした。
頭痛や、肩こり、イライラ、ストレス感、さまざまな不定愁訴があり、四六時中悩まれておられました。
もちろん病院にも通われ、整形的な治療もされているのですが、効果が無いとのこと。
そんな中、歯科治療を希望される。・・・大丈夫だろうか?
診てみると、なるほど、これでは大変でしょう。
しかし義歯を入れるためには、ほとんどの歯を扱わなくてはならない。
でも、ストレス満載の中、デリケートな口の中を扱っていいものだろうか?
治療を開始することで、さらにストレスをかかえることにはならないか?
なんと言ってもご高齢です。
長期になる治療に耐えられるかしら???
悩みました~。
最初の数回は口腔ケアなどしながら、これからの治療で、患者さんとの信頼関係を築けるものか、様子を見ていましたが、
患者さんの決心は変わりませんでしたし、この方となら、なんとか良い関系を築けるのでは、と感じました。
そこで、私も覚悟を決めて、治療計画を立て、着手することにしました。
ステップごとに、写真を撮ったり、型をとったり、うまく治療が進んでいるかをチェックしながら、
時には、尊敬する歯科医の先生にお尋ねしたりしながら、ゴールを目指しました。
少しずつ不定愁訴が消えていき、最終補綴の義歯が入ったときはかなり、不定愁訴が消えてお元気になられていました。
歯科はこれで終わりではありません。これからです。それからが大切なのです。
定期検診のたびにチェックさせてもらいました。
年齢の割に咬む力が強いので、歯が折れたり、動揺したり、色々ありましたが、そのたびに、その状況の中で精一杯対処して、
安定する状態へと治療していきました。
そして十数年経った今。
口腔内も全身症状も、とても安定しています。
よく咬めるので、義歯も壊れるくらい・・・笑
で、さっきのレントゲン室の話に戻ります。
患者さんに言いました。
「○○さん。○○さんのおかげで、私は勇気を持って全歯牙を扱う治療に挑戦するきっかけができました。
本当にありがとうございました。」
○○さんはこう言ってくださいました。
「私は、ここに来て良かった。先生に会えて本当に良かった。」
「まあ・・・こちらこそありがとうございます。」 涙
二人で、ありがとうを言い合いました。
○○さん。こんな私にそう言ってくださいって心からありがとう!
この方は若い頃から、夜もろくろく眠らないくらい、一生懸命に働いてお店を大きくしてこられました。
今では、新聞などに立派な広告をみつけます。
その並外れた忍耐力とコツコツ積み上げる生きる姿勢が、かみ合わせに出ていたのだろうと思います。
今回、私を見て、第一声が、
「あら~、先生、お元気ですね!」
声が大きいのでそう思われたのでしょう。
いえいえ、○○さんには負けてます。笑
私ごとき平凡な老歯科医でも、人の役に立ったと思うと、こんなうれしいことはないです。
歯科医冥利に尽きます!
言っておきますが、いい結果が出ることもあるし、そうでないことも、たっくさんあります。
でも、自分なりの治療指針に確信が持てるようになった、ありがたい出会い、ターニングポイントでもありました。
昨日はこの十数年の歯科医生活を振り返り、ありがたく、懐かしく思うことでした。はい。